offep1:料理当番制導入 sec-4
翌日夕方。
Stella「じゃあヴェリちゃんよろしくね~」
Veris「承知しました。……思えば料理するのは久しぶりですね」
Eva「なんか研究室来た時は『Stellaさんの助けになれば……』とやってた時期もあったな。まあ結局Stellaの方が美味かったわけだが」
Veris「人に食べられる物を作れない人は喋らないでください」
Eva「………………」
キッチンではVerisがいつも以上にきびきび動いていた。
包丁の音も一定で、鍋の火加減も丁寧。
盛り付けにまで少し時間をかけているのが見て取れる。
Stella「頑張ってるね~」
Quan「一般的な料理のプロセスが見て取れる」
Sol「今日は平和そうだな!」
Eva「……」
やがてVerisが出てきて、盆に置いた椀と皿を一つずつ配膳していく。
Veris「出来ましたよ。さあどうぞ」
白いご飯。
薄味の豆腐の煮物。
青菜のおひたし。
きのこの澄まし汁。
ごま和え。
焼き目すら控えめな何かの野菜焼き。
そして全体的に、茶色、緑、白。
非常に静かで飾り気のないラインナップであった。
Sol「……葬式?」
Veris「は?」
Stella「なんか……心が清らかになる感じの並びだね!」
Eva「清らかにはなるけどテンションが上がるかと言われたら、って具合だな……」
Veris「な……失礼な!」
Quanは一通り見渡して淡々と言う。
Quan「悪くないな。塩分過多でも脂質過多でもなく、素材の状態も安定している。見た目も破綻していない」
Veris「え……ありがとうございます」
Quan「食事とはこうあるべきものであろう。昨日までより遥かに良い」
Eva「お前は拘りが無いだけだろ」
Verisはわずかに得意げな顔で、エプロンを外した。
Veris「皆さんが散々な有様だったので、今回は栄養バランスと消化の良さ、味の安定性を重視しました」
Eva「その説明の時点で、もうなんか病院食寄りじゃないか?」
Veris「だ、誰が病院食ですか!!」
Sol「まあまあまあ。流石にコレでマズいということはないだろうし食べよ食べよ。いただきまーす」
Solが早速青菜のおひたしを口に入れる。
数秒後、顔が止まった。
Sol「……味、どこ?」
Veris「あ、ありますよ!?」
Evaも澄まし汁を飲む。
Eva「うっす」
Veris「薄くしてるんです!」
Stellaが煮物を食べる。
Stella「優しい味だね!」
Veris「な……あんまり嬉しくない……」
Stella「いやいや美味しいよ!?美味しいと思うけど!」
Veris「……『けど』ってなんですか!」
Quanは逆に落ち着いた顔で汁物を口に運び、静かに呟く。
Quan「私は好ましい味付けだと思う。着飾る必要など無い」
Sol「お前は好きそうだよな、こういうの」
Quan「刺激物で誤魔化していない。再現性が高い。無駄がなく完成されている」
Eva「料理の評価軸が研究データだな」
Sol「でもメシって、無駄があっていいもんでしょ」
Veris「良くないです!」
Stella「私は嫌いじゃないよ? なんか、身体に良さそうだし」
Veris「ほ、ほら!」
Stella「ただ」
Veris「ただ?」
Stella「ただ、ちょっとだけ……ワクワクはしないかも」
Veris「そんな!!」
Sol「わかる。悪くない、むしろちゃんとしてる。でも、全然テンション上がんない」
Eva「食卓見た瞬間、“はぁ……”って気分になる」
Veris「なんでですか!?」
Sol「なんでって、この色味見ろよ。全部“控えめ”なんだって」
Eva「しかも全部きっちりしてるせいで逃げ場がない。雑な一品すらない」
Stella「なんというか、お寺っぽいよね!」
Veris「お寺っぽいって何なんですか!」
Quan「的確だな」
Verisは明らかにむっとして、テーブルの端に手をつく。
Veris「いや、ちょっと意味がわかりません。ちゃんと作りましたよね? 手抜きもしてませんし、冷凍食品も使ってませんし、見た目も崩れてませんし、栄養だって考えましたよね?」
Eva「それはそう」
Sol「そこは認める」
Stella「うん、すごく頑張ってるのはわかるよ!」
Veris「じゃあなんで非難されないといけないんですか!?」
Sol「非難っていうか、地味って話を」
Veris「地味で何が悪いんですか! 夕飯はお祭りじゃないでしょう!」
Eva「ほんのり逆ギレしてるな」
Veris「逆じゃないです! 普通に納得いってません!」
Quanは焼き野菜を食べながら、やはり淡々としていた。
Quan「私は別にこの料理を悪いと思わない。今までで一番理想的だ」
Veris「Q、Quanさん!あなただけですよ分かってくれるのは!」
Sol「後ろ盾がこのカタブツか……」
Eva「この場でQuanにだけ刺さる料理出すの、ある意味すごいよな」
Stella「でも、ほんとにちゃんとしてるよね。盛り付けも綺麗だし」
Sol「でもさ、ぶっちゃけ“Verisっぽい”ごはんなのは間違いないだろ」
Eva「うん。しっかりしてるし、まともだし、でもちょっと堅い」
Veris「……」
Sol「だから、そこにもうちょいこう、冒険が」
Veris「ちゃんとした料理できない組は黙ってください!!」
ぴしゃりと、きれいに空気が止まった。
Sol「……え」
Eva「……」
Stella「あっ」
Quanは無言で箸を止める。
Verisは立ったまま、少し顔を赤くしていた。
Veris「冷凍食品を大量に並べた人と、勘で料理を作った人に、私の料理へ“冒険がない”とか言われたくないです!」
Sol「……」
Eva「……」
Veris「ちゃんと食べられるものを、ちゃんと作って、見た目まで少し改善して、それでまだ文句言うなら、せめて自分でもう少しまともなものを作ってからにしてください!」
Sol「……」
Eva「……はい」
Quan「妥当な反論だな」
Sol「で、でも私のは美味しかったじゃん!」
Veris「料理はその場その場のアイデアでやるもんじゃないですよ。あなた明日も全く同じもの作れます?」
Sol「……」
Eva「効いてるし」
Veris「あなたはまず人が食べられる物を作ってください」
Eva「……」
Quan「哀れ」
Veris「はぁ……別に、全否定されたくて言ったわけじゃありません。ただ、“地味”だの“精進料理”だの言われると、こっちだって思うところはあります」
Sol「……はい」
Eva「……ごもっともです」
Solはしゅんとしたまま煮物を口に入れる。
Sol「……味はほんとにちゃんとしてるんだよな」
Eva「あぁ。腹立つけど安定してる」
Veris「腹立てないでください」
Eva「いや、なんかこう、自分のゴミさが浮き彫りになる感じがして……」
Stella「反省会始まってる」
Quan「いい傾向だな」
Sol「お前だけなんでずっと満足そうなんだよ」
Quan「実際満足だからだ」
その構図を見て、Stellaがくすくす笑う。
Stella「なんか今日、Verisが一番強い日だね」
Veris「たまにはいいでしょう」
Sol「ぐうの音も出ない……」
Eva「料理できない組、きついな……」
Veris「自覚あるなら次はもっと頑張ってください」
Eva「はい……」
Sol「はい……」
やがてQuanが食べ終えて、切り出してくる。
Quan「という訳で、順番的には明日が私か」
Stella「そうだねぇ」
Eva「……お前料理出来るの?」
Quan「高校の時に調理実習で何度かやった程度だ」
Sol「ヘタであってくれねぇかな、いつも偉そうな奴が料理できない組だと面白いから」
Veris「そんな理由でまた台無しにされては困ります!!ちゃんとやってくださいねほんと……」
Quan「私の思う理想的な食事という形で提供する」
Stella「すっごく嫌な予感するな……」