ep6:"宿命" sec-2
その日、Celesは結局かなり長居することになった。
大半をEvaの悪口に費やして研究室はかなり盛り上がっていた。Eva本人だけは疲弊していた。
Celes「いやぁ、久しぶりにEvaの顔を見られて安心した。少なくとも生きてはいるようだし、ソファと一体化している点を除けば健康そうで何よりだ」
Eva「人を家具みたいに言うんじゃねえ!分かったら私の精神衛生のためにもさっさと帰ってくれ」
Celes「まあまあそう急かすな。お前がここでどういう扱いを受けているのかも大体分かったし、今日は十分楽しませてもらった」
Sol「また来いよCeles。次はもっとEvaの恥ずかしい話持って来いよな」
Eva「やめろ!」
Stella「また遊びに来てねぇ、Celesさん!Evaのことならいつでも好きにいじっていいからね!」
Veris「いいんですか……でも、Celesさんが来てくださるなら私も歓迎します。ちょうどEvaさんに強く出れる人が不足していたんです」
Eva「はぁ!?」
Quan「……概ね的を得ている。最近のコイツは調子に乗っていて不愉快だ」
Celes「はは、随分と歓迎されているじゃないか。民意とは素晴らしいものだな、Eva」
Eva「さっさと帰れ!」
Celesは最後まで楽しそうに笑いながら研究室を出ていった。
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それから、彼女は時々研究室へ顔を出すようになった。
最初はEvaをからかうためだったが、何度か訪れるうちにStellaの料理を食べ、Verisの小言を聞き、Quanとどうでもいい議論を交わし、Solとは妙に気が合うようになっていった。
Celes「Sol、お前またVerisを怒らせたのか。ここまで毎回同じ結末になるともはや才能だと思うぞ」
Sol「いやいや、委員長が勝手に怒ってるだけだって。私は普通にしてるのに、なんか向こうから毎回突っかかってくるんだよ」
Veris「どの口が言ってるんですか! さっき私の机に大量の消しゴムを積み上げてたのは誰ですか!」
Sol「崩したら怒ると思ったからそのままにしておいた」
Veris「どっちでも怒りますよ!!」
Celes「……なるほど、悪意があるのかないのか分からないところまで少しEvaに似ているな」
Eva「私はもっと理性的だが??」
Quan「一日中寝転がって適当な発言しかしない奴の何が理性的だ。驕るな」
Eva「ウッザ……」
Celesはそんな日常を面白がっていた。
そして、その中でも特にSolをよく見るようになっていた。
本人には悟られない程度に何気なく視線を向ける。
わざとらしいほど大きな身振り手振りでVerisと何か言い合っている。傍から見れば活発な女子学生のようである。
それでも、最初の違和感が何なのかは分からなかった。
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ある日。
研究室ではStellaたちが何かの資料を囲んで騒いでいた。Solだけが少し離れたところで、机に肘をついていた。
Sol「……なあCeles、さっきから私のこと見てない?」
Celes「そうか?気のせいじゃないか」
Sol「いや、見てるでしょ。私、目は見えないけど人がこっち向いてるくらいは分かるぞ」
Celes「それは失礼した。少し興味深かっただけだ」
Sol「へえ、私に興味あるの? 変な奴だな」
Eva「お前がここで一番変な奴だろ」
Sol「うるさい!」
Solが笑う。
その笑い声を聞いた瞬間だった。
Celes「……!!」
記憶の奥にあった何かが、突然ひっくり返った。
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薄暗い観察室。
壁一面のガラスの向こうで、白い拘束椅子に幼い少女が固定されている。
年齢はまだ十代前半にも見えた。痩せすぎていて、肩骨が不自然に浮いている。
研究員「被験体D-217、脈拍上昇。痛覚閾値試験を継続します」
少女「……っ、ぅ……あ、あぁ……っ」
研究員「抵抗反応を確認。鎮静剤は?」
別の研究員「不要です。直感反応を見る試験なので」
少女「やめ……っ、やめろ……!」
細い腕に無数のコードが巻かれ、電流が流れるたび、少女の身体が椅子ごと跳ねる。
だが研究員たちの視線は、少女ではなくモニターだけを見ていた。
研究員「やはり事前察知しているな。刺激前に筋緊張が発生している」
研究員「予測能力か、あるいは極限環境下での感覚拡張でしょうか」
研究員「どちらでもいい。数字が取れれば問題ない」
研究員たちは何やら端末を入力している。
その後方、照明も届かない位置に女性職員が立っていた。
女性職員「……人気者ですね」
同僚「上層部のお気に入りらしい。反応値がかなり良い」
女性職員「はぁ」
同僚「お前は興味ないのか?」
女性職員「……興味持ったところで別に」
その間にも、ガラスの向こうでは少女が苦鳴を漏らしている。
少女「ぁ……っ、あ……っ……」
研究員「次。視覚遮断状態で投薬」
少女「……やだ……っ」
研究員「記録」
少女「やめろっ!!」
暴れようとした瞬間、拘束具が腕に食い込み皮膚が裂けた。
少女「あがっ…………」
研究員「筋力上昇確認」
研究員「恐怖時の反応値が高い。追加でストレス負荷を」
少女「ひ……っ」
女性職員はその声を聞きながら、端末に淡々と数字を入力していた。
同僚「慣れてるな、お前」
女性職員「……毎日見てますから」
同僚「気分悪くならないのか?新人だろ?」
女性職員「……もう慣れました」
その後も表情一つ変えず、少女を見つめ続けていた。
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別の日。
研究員「被験体D-217。次に痛みが来る方向を答えろ」
少女「……右」
研究員「実施」
電流は左脚へ流された。
少女「……っっ!!?!?」
研究員「珍しく外したな」
研究員「いや、面白いぞ。通常なら右に来る配置だった」
研究員「環境の微細変化を読んでいるのか?」
研究員「いや。読みすぎている」
そんな研究員をよそに、少女は荒く呼吸しながら涙で濡れた目を必死に動かす。
誰かを探すように。
だが、ガラスの向こう側は何も見えない。
少女「……だれか……助けて……」
誰にも届かない声に対し、女性職員は少しだけ視線を逸らした。
同僚「どうした」
女性職員「……別に」
同僚「顔色悪いぞ」
女性職員「……元からです」
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その後も実験は続いた。
薬剤注射、加熱冷却、睡眠剥奪などありとあらゆる実験が少女に対して行われ、その度に悲鳴が上がった。
研究員「被験体の精神状態が不安定です」
研究主任「問題ない。壊れる寸前が一番データが取れる」
研究員「もし死亡した場合は」
研究主任「次を作ればいい」
その言葉を後ろで聞いていた女性職員の指が一瞬止まる。
女性職員「……D-217、生命維持安定。試験続行可能」
だが次の瞬間には、また事務的に記録を続けた。
やがて少女はボロボロの身体でこちらを見つめ始めていた。向こう側からは何も見えていない。
少女「……いるんだろ……」
研究員「何だ?」
少女「……だれか……そこに……」
当然、返事はない。女性職員も答えない。
答えれば終わるからだ。
やがて研究員に連れ出される少女を見届けた後、誰にも聞こえないようにぽつりと呟いた。
女性職員「……すまない」