ep2:"寒空の少女" sec-4
Verisが研究室で暮らし始めて一週間。
最初は「お手伝いをさせてください」と遠慮がちに始めた生活だったが、その一週間で研究室の空気は目に見えて変わっていた。
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朝。
まだ眠そうな研究室に、一番最初に起きるのは決まってVerisだった。
簡単な掃除を済ませ、洗濯機を回し、お湯を沸かす。
必要な買い物をメモへ書き出し、昨日散らかった資料を丁寧に棚へ戻す。
Stellaが起きる頃には、朝食まで並んでいた。
Stella「……うそ」
Veris「いえ、このくらいでしたら当然です」
Stella「前は朝起きたら資料が床に散乱してたのに」
Veris「……そうなんですか」
Verisは何とも言えない表情で部屋を見回した。
最初に見た時は空き巣でも入ったのかと思うくらいの部屋は、今ではかなり整理されるようになった。
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昼。
Stellaが研究へ集中する中、Verisは隣で資料を整理や器具の清掃など、出来ることから始めていた。
Stella「ヴェリちゃんあのでっかい本しらない?」
Veris「七曜魔法旧理論の本でしょうか…でしたらこちらに」
そんな何気ないやり取りが自然に増え、以前のような「申し訳ありません」の連呼も減っていた。
代わりに。
Veris「先日の基礎理論、ようやく理解できました。ありがとうございます」
感謝の言葉が増えていた。
Stellaもその変化に気付いてきたのか、会話が弾み始める。
Stella「ヴェリちゃん最近ちょっと笑うようになったよねぇ」
Veris「そ、そうでしょうか?」
Stella「うん!前なんかずっと申し訳なさそうにしてたもん」
Veris「そんなつもりは無かったのですが…」
Verisは困惑しつつも、やがて静かに微笑む。
Veris「…皆様が、とても優しくしてくれるので」
その言葉にStellaも嬉しそうに笑った。
その一方で。
研究室には一人だけ、相変わらずの人物がいた。
Eva「……」
いつもの小汚いソファで毛布を肌身離さず昼寝している生物が情けなく沈んでいた。
あまりに変わり映えしない光景すぎて、Verisも最初こそ「居候だから仕方ない」と思っていた。
だが、一週間観察した結果。
この人は本当に何もしない。
朝は朝食すら食べずに確実に寝ている。
昼はようやく起きたかと思えば、適当に研究に関係ない本を読みだし、すぐに飽きて二度寝する。
夕方付近、気まぐれでStellaにやたら的確なアドバイスをしたりしなかったりした後、三度寝している。
Veris「……」
あまりにもサボり魔としての構図が完成しすぎていた。
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ある日。
昼食を終えたEvaが、いつものようにソファへ寝転がろうとした瞬間だった。
Veris「Evaさん…」
Eva「え」
Verisは少し言いづらそうに口を開く。
Veris「その……」
Eva「なに」
Veris「少しは、お手伝いなどされた方が……」
Eva「やだ」
即答だった。一秒も迷いのない、潔すぎる返答である。
Veris「……ですが」
Eva「理由もいる?だるいから」
Veris「…共同生活ですし……」
Eva「寝る係だから」
Veris「答えになってませんが…」
Eva「めんど」
そう告げると即座に毛布を被り、もう聞かんぞと言わんばかりにわざとらしく目を閉じていた。
困惑したまま立ち尽くすVerisにStellaが横から入る。
Stella「何か言いたげだね」
Veris「いやそうですよ…」
Stella「Evaはあれでいいの」
Veris「…どうしてですか?」
StellaはEvaを見る。
Stella「うーん」
少し考える。
確かにいつも何もしないし、サボる。
人としてどうなのかと言われれば、普通にダメである。
Stella「でもね」
Verisを見る。
Stella「本当に困った時は、ちゃんと助けてくれるんだよ」
Veris「……」
Stella「それで研究室が回ってるのも事実だからねぇ」
Verisはモヤモヤを抱えつつも、Stellaが言うのだから納得するしかない。
正直Stellaも内心、(いいのかなこれは…)とは思っていたが、
研究室が成り立っているのはEvaの収入とたまに見せる閃き故に、適当に流しているのが現状である。
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翌日。
Verisがまた挑戦する。
Veris「Evaさん」
Eva「ん」
Veris「…洗濯物くらいできませんか」
Eva「や」
Veris「では、お皿洗いだけでも…」
Eva「むり」
Veris「掃除は…」
Eva「断固拒否」
Veris「……」
清々しいまでに働かない。そのやり取りを聞いていたStellaは吹き出す。
Stella「あはは、全滅だねぇ」
Verisは真面目な顔のまま呆れる。
Veris「…これほど意志が固いのは、ある意味尊敬できるかもしれません」
Eva「どうもどうも」
Veris「褒めてないですよ…」
その後もVerisは毎日懲りずに注意し、Evaは同じように受け流す。
その光景は、いつしか研究室の日常になり始めていた。
そしてStellaは、その二人のやり取りを眺めながら今日も思う。
(この研究室、前よりずっと賑やかになったねぇ)
そう思いながら、ぽやぽやと過ごすだけだった。
……一人だけ、以前にも増して堂々とサボる人間が完成しつつあること対して誰も本気でツッコミを入れられないまま。
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冬の朝。
研究室にはいつもの穏やかな時間が流れている。
Stellaは机いっぱいに資料を広げ、何やら唸りながら計算を続けている。
Verisはその横で洗濯物を畳み、床へ落ちた紙を拾い、空になったマグカップを台所へ運ぶ。
そして。
ソファではEvaが毛布に包まり、いつものように眠っている。
Verisはその姿を見て、小さくため息をつく。
Veris「……はぁ」
もう何度注意したか分からないが、変わるそぶりなど一筋も見えなかった。
そんなことを考えていると、テーブルの上に置かれたEvaの携帯から不意に静かな着信音が鳴る。
Evaは片目だけ開け、画面を見るとすぐに面倒そうな顔をして、そのまま起き上がった。
Stella「……おっ?」
Eva「……仕事」
Verisはこのぐうたら生物から初めて「仕事」という言葉が出た事にやや面食らっている。
Eva「はいこちら…了解」
それだけ言って通話を終え、普段の1.5倍くらいの速さで部屋の隅へ置いてあるバッグを持ち上げる。
Verisはその様子を見ていたが、やはり見ているだけでは抑えきれなかった。
Veris「…仕事してたんですか?」
Eva「あー…まあ」
Veris「…どのようなお仕事を?」
一瞬だけEvaの動きが止まるが、すぐに何事もなかったようにマフラーを巻く。
Eva「ちょっと」
Veris「ちょっと、って」
Verisは納得できないまま。
Veris「…以前から時折そのように外出されてますが」
Eva「そうだったっけ」
Veris「毎度急にいなくなるので流石に覚えますよ」
Verisは真面目な表情のまま続ける。
Veris「毎回、かなり疲弊して帰ってきてますが、危険なお仕事なのでしょうか?」
Eva「まあ確かに…」
Veris「……具体的には?」
Eva「いろいろ」
Veris「いやそうじゃなくて」
Eva「いろいろはいろいろ」
Veris「……」
あまりにも雑すぎる返しに、Verisは如何にも納得いかないですと言う顔でじっとEvaを見る。
Evaも平然と視線を返し続けるが、膠着は続く。先に折れたのはEvaだった。
Eva「…詮索するな」
Veris「ですが!」
Eva「そのうち帰るから」
それだけ言って玄関へ向かおうとするEvaをしつこくVerisが追う。
Veris「せめて、どちらへ行かれるのかだけでも!」
Eva「ダメ」
Veris「理由は」
Eva「ダメだから」
Veris「理由になってないです!」
うるさそうな顔をしながら玄関で靴紐を結び終えたEvaは、小さくため息をつく。
Eva「じゃ行ってくるから」
Veris「ちょ、まだ話は!」
バタン。
返事より早く扉が閉まった。
Verisは玄関の前へ立ったまま動かなかった。
どう考えても誤魔化された。というより誤魔化す気すら感じられない。
不満に近い疑問を抱えたVerisは居間へ戻る。
相変わらず資料とにらめっこをしているStellaの隣にVerisが座り、切り出し始める。
Veris「Stellaさん、その……」
Stella「んぇ?」
Veris「……Evaさんのお仕事とは、一体何なのでしょうか」
Stellaの手が止まる。
分かりやすくしまったという表情を落としてしまったが、資料と向き合ってる時もこんな顔だったのか偶然にもバレない。
Stella「うーん……内緒」
Veris「……Stellaさんまで!!」
Stella「……まぁ、気にしなくても大丈夫だよ」
それ以上は喋らないと言わんばかりにまた資料の方を向く。だがVerisはさらに食い下がる。
Veris「…危険なお仕事なのですか?」
Stella「うーんわかんない」
Veris「違法なことでは…」
Stella「多分大丈夫だと思うけどー」
答えているようで何も答えていない。
Evaと違いStellaは隠し事なんてしなそうな顔付きである。なのに、この話だけはどれだけ聞いても口を割らない。
やがてVerisは黙り、部屋には暖房の音だけが響く。
普段は何もしないくせに、突然どこかへ行っては、疲れ切った顔で帰ってくる。
内容は絶対に話さない。Stellaまで隠す。
「……何なんでしょうか」
思わず出た呟きは、驚くほど冷たかった。
Veris「普段はほとんど何しないのに、急にどこかへ行って、何をしているのかも教えてくれない」
そしてVerisは静かに息を吐く。
Veris「……無責任な方ですね」
その言葉に悪意はないものの、Verisが見聞きした事実だけを繋ぎ合わせた一つの答えだった。
Stellaは内心やや困り始めていた。
「違うよ」と言えば秘密を明かすことになるし、「その通り」と言えばますますEvaは無責任な奴になっていく。
結局、Stellaはいつものように曖昧に笑うことしかできなかった。
Verisはその笑顔を見ても納得できるわけない。
心の中で小さく芽生えた違和感は、この日を境に少しずつ「不信感」という形へ変わり始めていた。
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数日後。大学側から研究室へ一本の連絡が入った。
Stellaが管理する研究室へ、中規模の研究支援業務が割り振られたのだった。
普段より多い資料整理、実験結果の取りまとめ、提出用データの整合性確認など面倒な課題が多め。
期限は一週間。
決して不可能ではないが、三人全員が動かなければ余裕もない量だった。
Stella「忙しいぃ~…」
Eva「…これ私も頑張らないとダメな奴?」
Veris「…普段からそうしてくれませんか」
次第に空気は張り詰めていく。
Stellaは実験室へ籠もり、朝から晩まで検証を繰り返す。
Verisは資料整理、備品管理、提出書類の確認まで引き受け、休む暇もなく動き回る。
そしてEvaも珍しくソファへ寝転がらず、眠そうに端末を開いている。
Veris「……」
その姿を見て、少しだけ驚く。
Evaはパソコンへ向かい、論文を読み漁りながら必要な計算を進めていた。
表情だけは相変わらず気怠そうなのに、処理速度だけが異常に速く指が止まっている様子が無い。
Stella「早っ!」
Eva「まあこんなもんだろ」
数時間後。
EvaはUSBメモリを机へ放り投げた瞬間、横になり始める。
Eva「終わった」
Stella「えっ!」
Stellaが中身を確認すると、必要な解析は全て完璧な状態で終わっている。
Stella「わぁ……Eva大好き!」
Eva「お礼は出前寿司でいいぞ」
Verisも横から覗き込む。確かに内容は問題なく、非常に緻密な構成を成したデータが並んでいる。
だが問題は。
Veris「……」
「new」「new2」「final」「final_final_2」「ボツ」と並んだファイル名。
Veris「……」
フォルダ分け、注釈、途中計算が全く見当たらなく、参考資料もグチャグチャの状態である。
Verisは呆れながらゆっくり顔を上げる。Evaはもういつもの体勢に戻っている。
Veris「…Evaさん」
Eva「なに」
Veris「終わった、ではなくてですね」
Eva「終わってるが」
Veris「整理しないと出せる形になりません」
Eva「やっといて」
即答。
Veris「共同作業ですよ」
Eva「だから共同ってことで。肝心の部分はやってあげてるから」
Veris「……」
ぐっと拳に力が入るが、それでも堪える。
Veris「…せめてファイル名だけでも」
Eva「いやだ」
Veris「コメントを」
Eva「やだ」
Veris「途中式を」
Eva「や」
Veris「………………………」
Stellaが間へ入る。
Stella「まあまあ……」
Eva「…成り立ってるんだからいいだろ。コイツが扱えないところはやっといたから」
その一言だった。
Verisの中で、何かが切れる音がした。
Veris「……いい加減にしてくださいよ」
研究室が静まり返る。
Stellaも思わず手を止める。
Verisは今まで見せたことのない、強い目でEvaを睨んでいた。
Veris「私はずっとあなたのことが分かりませんでした」
Eva「……」
Veris「普段は何もしないし、突然いなくなる、理由も教えてくれない」
Veris「そして、働く時だけ一気に終わらせて、後始末は全て他人任せ」
Veris「それで『成り立っているからいい』ですか」
Eva「そうだが」
Veris「あなたは間違ってます!!」
Veris自身も驚くほど大きな声が出ていた。
Stella「Verisちゃん……」
オロオロするStellaを尻目に、今まで積み重なっていたものが一気に溢れだすようにVerisは止まらなかった。
Veris「誰かが後片付けをしているから成り立っているだけです!」
Veris「Evaさんは結果だけ出せば終わりかもしれません!」
Veris「ですが、その後を支える人間がいることを、考えたことはあるのですか!」
黙ったままつまらなそうな顔をしているEvaを見て、Verisはさらに続ける。
Veris「私は……」
少し息を整える。
Veris「最初は事情があるのだと思っておりました」
Veris「ですが、あなたはただ面倒だから、やらない」
Veris「それだけではありませんか」
数秒の沈黙が続く。
Evaはソファへ深く座り直し、この期に及んでどうでも良さそうに小さくため息をついた。
Eva「そうだな」
あっさりすぎる回答Verisは言葉を失う。
Eva「面倒だからやらんものはやらんし、必要ならやる。必要以上はやらん。」
Veris「……」
Eva「それで成り立ってるのがここ」
その淡々とした口調が、かえってVerisの神経を逆撫でする。
Veris「必要なことでしょう」
Eva「私は必要じゃない」
Veris「私達に必要なんです!」
Eva「じゃあお前が整理すれば」
Veris「……!」
その一言が決定打だった。Verisはもう止まらない。
Veris「またそうやって……!面倒なことを全部他人へ押し付けて!!」
Veris「責周囲が支えることを当然だと思って、能力にだけ甘え続けて……そんな方が……!」
呼吸が乱れている。
これ以上はまずいとStellaは慌てて立ち上がる。
Stella「ふ、二人とも」
しかし止まらなかった。
Veris「そんな方が、人の上に立つ資格などありません!!!!」
研究室が完全に静まり返る。
EvaはしばらくVerisを見つめていた。
怒るわけでもなく、反論するわけでもない。
ただ静かに。
Eva「……別にそんなつもりないんだけど」
その一言だけで終わる。
Verisは愕然とする。
自分がどれだけ訴えても、この人にはまるで届いていないのか。
積み重なっていた不信感は、とうとうはっきりとした嫌悪へ変わっていく。
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Veris「……どうして、そんな生き方で良いと思えるのですか」
Eva「哲学?」
Veris「ふざけてません。誰かに支えられることを当然だと思ってるでしょう」
Eva「思ってないけど」
Veris「だったら何故その態度なのですか!!」
Evaは面倒そうな表情を変えないが、少し物悲しそうにも見える。
Eva「…効率」
その一言が、Verisには言い訳にしか聞こえなかった。
Veris「は……?それで済むとでも思ってるんですか」
Eva「済んでるから」
Veris「いい加減にしてください!!Stellaさんが優しいからって、周囲が何も言わないからって、甘えているだけではありませんか!!」
Stella「Verisちゃん、それは」
止めようとするが、もはやVerisの耳には届いてなかった。
Veris「何もしない、説明もしない、後始末もしない…」
Veris「それで都合が悪くなると『面倒』の一言で終わらせる……」
Veris「そんな方を私は……」
一瞬だけ間が空く。
その一瞬で止められればよかったものの、堪えきれなかった。
Veris「そんな方を、私は認めることなんてできません」
Stellaの表情が固まる。
Veris自身も、言った瞬間にまずいとは思ったが、もう遅かった。
Evaは数秒黙っていた。
怒る様子も反論もしないが、やがて悲しそうにつぶやいた。
Eva「……そうか」
そして唐突に立ち上がり、いつものコートを手に取る。
Stella「え、Eva?」
Evaは机の上の書類を軽く叩いた。
Eva「これ、そのまま出せ」
Stella「え?」
Eva「一時的には何とかなるとは思うから」
Stella「いや、ダメだって!」
話も聞かずにバッグを肩へ掛ける。
Veris「どこ行く気ですか。話はまだ終わってませんが」
Evaは振り返らないまま、ただ玄関へ向かう。
Veris「逃げるんですか!!」
Stella「Veris!!」
問い詰めるVerisを一瞥し、Evaは心底面倒そうな顔で告げた。
Eva「いなくなれば満足なんだろ」
Veris「そ、そこまでは」
Eva「そうするから」
そう告げた後、反論を言う前に扉が閉まってしまった。
研究室には静寂だけが残る。
Verisは荒い呼吸を繰り返していた。
思いがけないEvaの行動に最初当惑していたが、やがて怒りへと変わっていく。
そして吐き捨てるように言う。
Veris「…本当に最悪」
Stellaは玄関を見つめたまま動かなかった。
「どうしよう……」
その呟きだけが部屋へ落ちる。誰も幸せにならないまま、期日までの期限だけが無情にも過ぎていく虚しい時間であった。
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その日の深夜。
提出期限は翌朝。
真っ暗な研究室に二人、家出した無責任女が遺したデータと格闘していた。
Stella「ここ……」
Veris「計算式がありませんね…」
Evaが担当していた部分を必死に読み解こうとするが、進捗は良いといえない。
Stella「まずい……」
Veris「じ、時間が……」
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無情にも時は過ぎていき、午前4時。
提出期限1時間前にも関わらず、二人とも限界が近かった。
Stellaは机へ突っ伏しそうになる。
Verisも目を擦る。
それでも「間に合わない」という現実だけは変わらない。
絶望的な空気が部屋を支配し始めた頃だった。
ピコン。
Stellaのパソコンへメールが届く音。
送信者はEvaからだった。
Stella「!」
急いで開くと、ファイルが大量に添付されてある。
不足していた解析、途中計算、注釈、参考文献、提出用レイアウト。
メール本文の「これ出して」という適当さ加減以外、全てが腹立たしいほど完璧な状態で揃っていた。
Veris「……」
Stella「……素直じゃないんだからぁ」
Veris「……意味が分からない」
Stella「Verisちゃん!急いで確認するよ!!」
放心状態だったVerisが途端に我に返る。
Veris「は、はい!!」
二人は無言で最後の大詰めに入る。
そして提出5分前。
全てのデータの整合性が確認でき、ギリギリの所でデータを送付することに成功した。
全てを凌いだStellaは途端に椅子へもたれ、大きく息を吐いた。
Stella「た、助かったぁ……ひぃぃ……」
Veris「何とか……なりましたね……はぁ……」
Verisも疲労を抱えたまま画面を見つめる。
結局、最後の最後で研究室を救ったのはEvaだ。
だが、その事実はVerisの胸を軽くするどころか、かえって複雑な重さだけを残したまま朝の鈍い光が照らし始めていた。