offep4:魔法学部の二人 sec-6
研究室の空気がようやく落ち着いた頃、Stellaは泣き疲れたTirnaに膝枕しながらふと思い出したように手を叩いた。
Stella「そうだ! せっかく二人とも来てくれたんだし、研究室の中を案内してあげようか! 七曜魔法のお話は……もう少し落ち着いてからでもいいよね?」
Tirna「……はい、ぜひお願いします……私も実際にどんな研究をされているのか気になっていましたので」
Eva「え、講義とケンカやらんのもう?」
Veris「そういうことをわざわざ口に出さないでください! まあ……研究室紹介くらいが今は良さそうですね」
Quan「研究設備の紹介として成立するものがどれだけ残っているか甚だ疑問だがな」
Sol「おっ、じゃあ私のスケボーも紹介してやろうか?Rayも興味あるだろ!」
Ray「もちろんです師匠! あの素晴らしい成果物がどんな環境で生み出されたのか、ずっと気になったんです!」
Veris「まだ紹介すら始まっていないのに不安要素を増やさないでください!!」
Stella「それじゃあ……まずはこっちから! この棚には昔の研究資料とか、実験に使った道具とかが入ってるんだよ」
Stellaが指差した棚には、分厚い専門書や古びた箱、用途の分からない金属片、何かの部品らしきものが雑然と詰め込まれていた。棚の上にはなぜか片方だけの靴下まで置かれている。
Ray「わ!この金属の部品は何ですか? すごく複雑な形をしていますし、何かの魔導装置だったんですかね?」
Stella「えっとね、それは……何だったかな? 前にSolが何か作ってた時の部品だった気がする!」
Sol「んー? ああ、あれか! 確か机の上のものを適当にくっつけて、何かを飛ばそうとしてた時のやつだっけ?」
Tirna「何一つ分からないんですが……」
Ray「なるほど、既存の部品を再利用して新しい魔導装置を開発するわけですね! 師匠、私もこういう柔軟な発想を身につけたいです!」
Sol「へへ、大事なのは発想力だからな! 理論は後からどうにかすればいいんだよ!」
Quan「……それで研究を進めた結果が用途不明の廃材と破損した備品の山だ。お前の師匠は反面教師としては優秀かもしれないな」
Quanがまた表情一つ変えずに毒を吐く。だが、Rayの反応は意外だった。
Ray「でも、失敗した実験にも何かしらの知見はあるはずですよ! この部品が何に使われていたのか、調べてみたら面白そうですし!」
Quan「面白そうという理由だけで他人の時間を浪費するな。まずは外形と材質から用途を推定しろ、それができないなら触るな」
Ray「はい! じゃあ、材質を調べるために少し分解してみてもいいですか? 中の構造を見れば、どういう仕組みなのか分かるかもしれません!」
Quan「なぜ分解という結論に至った。外部観察で得られる情報を整理してから判断しろと言っている」
Ray「外から見て分からないなら、中を見ればいいと思ったんです! もちろん壊しませんよ!!」
Quan「……だから、そういう話ではない」
RayはQuanに怒られてもまるで気にせず、部品を手に取って角度を変えながら観察している。むしろ、難しい話をしてくれる相手ができたこと自体を楽しんでいるようだった。
Ray「Quanさんは、こういう装置の仕組みに詳しいんですね! さっきの説明もすごく勉強になりますし、他にも面白い研究成果があったら教えていただけませんか!」
Quan「今の説明を理解していたなら、少なくとも分解などという発想は出てこないはずだが」
Ray「そうなんですか? でも、理解できていないところがあるなら、もっと教えてもらえばいいんですよね! 私、知らないことを知るのは好きなので!」
Quan「……」
Eva「……おい、Quanが会話を成立させること自体を諦めかけてるぞ」
Quan「……誰がだ」
Veris「Rayさん、悪気がないのは分かるんですけどもう少し相手の話を聞いてください……。Quanさんも、そんなに露骨に嫌そうな顔をしなくてもいいでしょう」
Ray「はい!!!それでQuanさん、この部品って結局何なんですか? さっきから気になって仕方ないんです!」
Quan「知るか……Solが作ったものの用途を私がすべて把握していると思うな」
Ray「えっ、Quanさんでも分からないものがあるんですか! この研究室って本当に奥が深いんですね!」
Quan「……お前はどういう思考回路をしているんだ」
Ray「褒めてますか!?ありがとうございます!!せっかくなので他のものも見せていただきたいです! あっ、あの机の下にある箱は何ですか?」
Quan「………………」
Ray「Quanさん!?!?」
Quan「……もういい」
その言葉とともに、Quanは露骨に顔を背けた。普段なら相手の発言の矛盾を容赦なく指摘し、理屈で黙らせるまで引き下がらない彼女が、今回は会話を打ち切ることを選んだのである。
Veris「Q、Quanさんが押されてる……Tirnaさん相手ならあれだけ容赦なく論破してたのに……」
Tirna「ちょ、ちょっとそこで私を引き合いに出さないでください! 私は別に好きであんな言い方をされているわけじゃないんですが!」
Eva「……なんつーかお前、反論そのものを好意的に受け取ってるよな。理詰めで戦う人間にとって相性最悪だろうな」
Ray「ありがとうございます!!」
Eva「ほら……」
Stella「Rayちゃん、Quanちゃんともすっかり仲良くなれたみたいでよかったね!」
Quan「断じて仲良くなっていない。私は一方的に疲弊させられただけだ」
Ray「えっ、そうなんですか!? でも私、Quanさんのお話を聞けてすごく楽しかったですよ! またいろいろ教えてくださいね!」
Quan「……二度と来るな」
Ray「はい! また来ます!」
Quan「…………」
Eva「わはははは!!wwwww」
Sol「ひーっ!!ww Ray、アンタ最高だよ!!ww」
Ray「師匠に褒められた!!!!!」
Tirna「……アンタのこと、今日だけ見直したかも」
Ray「どういう意味ですか!?」
Quanはいつになく疲弊した顔で会話を切り上げてソファに戻っていった。当然Rayもついていってまだ質問を浴びせている。
Tirnaはその光景に呆れつつも、何故かちょっと満足気だった。研究室の紹介は1つもできていない。