offep1:料理当番制導入 sec-6
翌日夕方。
キッチンから順番に漂ってくる匂いが、もう露骨に違う。
炒める音、煮込む音、何かを刻む軽やかなリズム。
そしてたまにStellaの軽快な呟きやら鼻歌。
Sol「……なんか今日ほど安心感のある日もそうそう無い気がするわ」
Eva「腹立つくらいあるな」
Veris「腹立てるところではないでしょう……。でも確かに、今日のご飯が楽しみという気持ちはここ数日忘れかけてました」
Quan「工程数が多いな。非効率的ではないか」
Eva「お前黙ってろマジ」
しばらくして、Stellaが大きめの皿を両手に持って現れた。
Stella「できたよー!」
食卓に並べられていく料理は色とりどりとしている。
こんがり焼かれた主菜。
鮮やかな野菜のマリネ。
小さな器に入ったスープ。
きれいに巻かれた卵料理。
香草の乗った副菜。
つやのあるご飯。
全部にちゃんと手がかかっているのが容易に見て取れる。
Sol「うまそーー!!!」
Eva「改めて見るとコイツの料理凄いな……」
Veris「今まであまり意識してなかったですが、お店開けますねこれは……」
Quan「違いが分からない」
Sol「何の??????」
Stella「はいはい、冷める前に食べてね~」
Sol「いただきます!」
Eva「うす」
Veris「いただきます」
Quan「……」
久しぶりの何も気にしなくていい、平和な夕食が幕を開けた。
Sol「うっま!!!!」
Eva「……やっぱ美味いわ。これで良かっただろもう」
Veris「……まあそれはそうなんですが……しかし美味しいですね」
Quanも無言でひと通り食べていたが、やがて短く言う。
Quan「……よくできている。味、温度、食感、見た目、全部の設計が破綻していない。妥当な料理と言える」
Sol「評論家か」
Stellaはちょっと嬉しそうに、でも気恥ずかしそうに肩をすくめる。
Stella「えへへ……まあ、普段作ってるからねぇ」
Veris「やっぱり慣れてる人は違いますね……」
Sol「美味しい料理に感謝!!」
Eva「全くだな」
Stella「そ、そんな褒められるとちょっと恥ずかしいなあ……」
Eva「いや褒めるだろこれは。勘で作った料理、冷凍祭り、精進料理、タッパー液体、拗ね定食と来てこれは誰でも感謝したくなる」
Veris「誰が精進料理ですか!!!」
Quan「不本意」
Sol「おい、お前1個飛ばしてね?冷凍の後一番カスな料理作ったの誰だ?あ?」
Eva「………………」
Stellaが吹き出す。
Stella「あはは!改めて並べるとひどいね!」
Sol「そのあとにこれだからな。そりゃ神に見える」
Eva「実際一番だろ。全員が素直にうまいって言ってるし」
Stella「でも、みんなのも私は結構好きだったよ?」
四人が見る。
Sol「マジ?私のあれも?」
Stella「うん。見た目はびっくりしたけど、味はちゃんとしてたし」
Eva「私のも?」
Stella「……楽しかったね!」
Eva「おい」
Sol「wwwww」
Veris「……私のもですか?」
Stella「よかったよ!すごく真面目で、ヴェリちゃんっぽかったね!」
Veris「それ前にも言われましたけど、あんまり嬉しいのか微妙なんですよね……」
Quan「私のはどう評価する」
Stellaは一瞬だけ言葉を選ぶ顔をしたあと、にこっと笑った。
Stella「……昨日のはすごくおいしかった!」
Quan「その前は」
Stella「……なかったことで!」
Sol「わははw」
Eva「こいつでも擁護しきれないか」
こうしてしばらく、全員が久しぶりの平和で充実したStellaの手料理を楽しんでいた。
なのに。
その空気を余計な一言で壊そうとする奴がいた。
Sol「でもさー」
Veris「どうしましたか」
Sol「いや、うまいよ? めっちゃうまい、うまいんだけどさ」
Eva「あー……」
Stella「え?」
Sol「昨日のQuanのアレさ、ありえないくらい美味かったじゃん」
Veris「そこで引き合いに出しますか?」
Quan「そうなのか」
Eva「いや、でもちょっとだけわかるんだよな……」
Evaは箸を止めて、少し言いづらそうにしつつも続ける。
Eva「今回も普通に上位なんだけど、あのQuanのやつって、なんか異様に完成度高かっただろ。あれと比べると、あと一歩だけ届かない感じは……」
Sol「分かる!!なんかあれは別次元にいたよな!」
Veris「ちょっと!失礼ですよ!!」
Quan「くだらない」
Stella「…………」
空気が、ほんの少しだけ止まる。
Stellaは笑顔を崩したわけではない。ただ、ほんの少しだけ目が揺れた。
Stella「……そっか」
声も普通だった。
でも、ほんの少しだけ沈んだのがわかる程度には、近くにいる四人は気づいた。
Verisがぴたりと箸を置く。
Veris「……あなた達」
Sol「あ」
Eva「やべ」
Veris「なんでそこで言わなくていいことをわざわざ言うんですか!?」
Sol「いや、悪気はなくてだな」
Veris「悪気があるかどうかの話じゃありません!今日のこれ、普通にすごくおいしいじゃないですか。しかもStellaさんが普段からどれだけ安定して高水準で作ってると思ってるんですか!!!たまたま一回、嫌々やらされて異様な才能を発揮した人の料理と比べて、“あと一歩”だの何だの、そんなの言う必要ありますか!?」
Eva「すいません……」
Sol「はい……」
Stella「ヴェリちゃん、そこまで怒らなくても~」
Veris「怒りますよ!!!口に出す必要がありましたか!?」
Quan「その点はそうだな。高水準の食事という点ではどちらも差異は無い」
Eva「自分で言うか」
Stellaは少し困ったように笑って、箸で副菜をつついた。
Stella「いや、まあ、わかるよ? Quanちゃんのアレ、すごかったし」
Quan「私は別にそういう気はない」
Stella「あはは!でも私は、別に勝ち負けで作ってるわけじゃないからねぇ」
Sol「……」
Eva「余計に刺さる」
Stellaは少しだけ肩をすくめる。
Stella「でも、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけしょんぼりはしたけど」
Sol「うっ」
Eva「大変申し訳ございません……」
Veris「ほら!!!Stellaさん悲しんでるじゃないですか!!!反省しなさい!!」
Quan「自覚があるなら次から黙れ」
Sol「はい……」
Eva「はい……」
二人が揃って縮こまる。
Veris「……ともかく、料理できない組は、しばらく余計な比較と講評を慎んでください」
Sol「……はい」
Eva「料理できない組、固定なんだなもう」
Veris「当然でしょう」
Stella「あはは……でも、二人とも反省したならよし!」
Solはしゅんとしながらも、もう一口主菜を食べる。
Sol「……やっぱうまいわ」
Eva「うん。悔しいけど、こっちの方が人に勧めやすい」
Veris「何を悔しがってるのかは知りませんが、その感想は正しいです」
Quan「私はどちらでもいいが」
四人「「「「よくない!」」」」
Quan「何だ」
Veris「そういうところでしょう!!」
Eva「お前が“どうでもいい”で済ませるから周りが荒れるんだよ」
Sol「しかも自分はもう絶対料理しないって顔してるし」
Quan「しないが」
Stella「えぇ!?」
Quan「しない」
Veris「断言が速いですね……」
Quan「今日の件で確認できただろ。お前らは勝手に比較し、勝手に傷つき、勝手に揉める。料理担当になる合理性がない」
Sol「ちょっと筋通ってるのが腹立つ」
Stellaは苦笑しながら、汁物を飲み干す。
Stella「まあまあ。こうやって一週間、みんなのごはん見るのなんだかんだ面白かったよ。もうちょっとみんなもやってほしいなー、って思う」
Eva「この完成度でそれ言われると圧がすごいんだよ」
Veris「基準が上がりすぎていることは否めませんね……」
Sol「私、次また創作料理出したらすごいことになりそう」
Quan「私は完全栄養食で十分だが」
四人「「「「ダメ!!」」」」
Quan「……」
Stella「だめだよ」
Quan「……雑な多数決」
Eva「ここじゃまかり通るからな」
Stellaは少し照れたように笑いながら、指先で自分の頬をかいた。
Stella「別に、私みたいに作れってことじゃないよ? ただ、手抜きとか効率だけじゃなくて、“食べる人のことちょっと考える”くらいは、みんなもやってくれたら嬉しいなって」
Veris「……それは、そうですね。正直、当番制にしてからよくわかりました」
Eva「まあ、冷凍食品だけ並べたやつが言うことじゃないけど、同意はする」
Sol「私も。見た目ちょっと変でも、せめて“出して終わり”にはしない方がいいか」
Quan「非効率だな」
Eva「まだ言うかお前は」
Quan「別にどんな食事でも成立していた」
Sol「タッパー液体出したやつが言うな」
食後、空いた皿が並ぶテーブルを見て、Stellaは満足そうに息をついた。
Stella「うん。やっぱり、みんなで食べるごはんは楽しいね」
Sol「それは今日だから言えるやつな」
Eva「私のやつとQuanの流動食の日に同じこと言えたら大したもんだよ」
Quan「一緒にするな」
Veris「大して変わりませんよ……」
Stella「まあ、というわけでみんなお疲れ様!またやりたくなったら当番制やるかも!よろしくねぇ」
Eva「勘弁してくれ……」
平和な食卓を作っている張本人だけが、気分次第でいつでもこの一時を破壊しようとしていることを四人は悟りながら、長い一週間が終わったのである。