ep6:"宿命" sec-5

研究室が静まり返る。 Celesは答えられなかった。 その沈黙が、Solには何より雄弁だった。 Sol「……いたんだな」 Celes「……」 Sol「しかも、私を見てた」 Celes「……Sol」 Sol「違うなら否定してくれよ!」 Celes「……」 Sol「私が実験されてるところを、ガラスの向こうから見てたんだろ!!」 Veris「ちょ、ちょっと待ってください! Sol、施設とか実験って一体何なんですか? それにCelesさんがそこにいたって……」 Stella「Solちゃん、私もよく分かってないんだけど……もしかして、鑑定店にいた時に言ってた『普通の生まれじゃない』って……」 Sol「……そう。私は施設の実験体として生まれた。そして、私の両目はそこで奪われた」 Stella「……」 Veris「……」 Quan「……」 Eva「Sol……」 Sol「なあ、Celes」 Celes「……なんだ」 Sol「お前は、あの時どこにいた?何を見てた?何を知ってるんだ?」 Celesは答えない。Solの声が、少しずつ低くなっていく。 Sol「……私が何者なのか知ってて、ずっと、私の事を見てたわけ?……また?」 誰も何も言わず、凍てつくような時間がしばらく続いた。やがて、Celesが大きなため息をついて切り出した。 Celes「……参ったな。まさかここまで辿り着くとは思っていなかった。お前の直感を侮りすぎていた」 Sol「……やっぱり、そうなんだな」 Celes「そうだ。私は昔、あの施設で働いていた」 Sol「……」 Celes「ただし、最初に事実として伝える。私は研究者ではない。実験を指示したこともお前に手を出したことは一度もない。私は一般職員として、記録や事務処理をしていただけだ」 Sol「……」 Celes「お前の言う通り、実験室の中で何が行われていたのかは知っていた。お前が被験体として扱われていたことも、そして……お前の両眼が摘出されたことも、私は知っている」 Stella「……ほんとに、Solちゃんの眼って……」 Veris「Sol……」 Solは何も答えない。 Celes「私はそれを止めなかった。正確には、止める権限がなかったと言おう。あの場所では余計なことをすれば自分自身が消されていた」 Quan「……だから見るだけ、という選択を貫き通したという訳か」 Celes「そうだ」 Eva「……一応言うが全て事実だ、少し前に私は全て聞いている。……この人は嘘をつくような人じゃない、信じてくれないか」 Stella「う、嘘とは思わないけど……でも……」 Veris「す、すごい色々ありすぎて呑み込めないというか……」 外野が当惑し始めてざわつく中、Solだけは黙りこくったまま下を向いていた。やがて、Celesと目線を合わせないまま言う。 Sol「……でも、見てたんだ。私があそこで、泣いたり叫んだりしてたのを、ずっと?」 Celes「……ああ」 Solの手が、ゆっくりと握られる。 Celes「……Sol。私は――」 Sol「出てって!!!!」 突然、研究室中に響く声が落ちた。 Veris「Sol、待ってください、Celesさんは――」 Sol「出てけよ!!!!!!」 SolはCelesを睨みつけて、声を震わせる。 Sol「そんなの知らねえよ!!!権限がなかったとか、研究者じゃなかったとか、そんなの関係ないだろ!私があそこでずっと苦しんでた時、お前はガラスの向こうにいたんだろ!!」 Celes「……」 Sol「私が何されてるか知ってて、眼取られる時も、ずっと見てたんだろ!!それで今さら私の前にまた来て、また何か企んでるんだろ!!!!」 Eva「Sol!!そんなことは!」 Sol「うるさい!!!!!今すぐ出てけ!!!!私の前から消えろ!!!!!」 Celesは何も言い返さなかった。 山ほど伝えたいことがあるのに、今のSolにそれを説明しても意味がないことは誰の目から見ても明確であった。 やがて、目線を落としたまま小さく告げる。 Celes「……分かった。……本当にすまない」 それだけ呟いて、一度も振り向くことなく研究室を出ていった。 --- 扉が冷たく閉まった後、残された5人は誰もすぐには口を開けなかった。 Stella「……Solちゃん」 Sol「はぁ……はぁ……」 Veris「私、何が起きたのか全然……」 Quan「……」 Eva「……最悪だ」 Evaは頭を抱えたまま、しばらく動かなかった。 Solは息を切らしながら閉じた扉を睨んでいる。StellaとVerisは状況についていけず、Quanは静かにSolを見つめている。 やがてEvaが深く息を吐く。 Eva「……もう1回言っとくが、CelesはSolを実験した側じゃないというのは本当だからな。あいつは研究者でもなかったし、Solに何かしたわけでもない」 Sol「……でも施設にいたんだろ。じゃあ同じじゃん」 Eva「同じじゃない。Celesは一般職員だった。実験の記録とか事務処理をしてただけで、研究そのものには関わってない。Solをどうするか決める立場でもなかったし、あんたに触れたことすらない」 Sol「……」 Eva「あいつは実験室の外から見ていただけだった。もっとも、それが良かったなんて言うつもりはないというのは本人もそこは分かってる」 Sol「……」 Eva「だから、Celesがあんたを傷つけたって話じゃない。少なくとも私はそう認識した」 Sol「でも見てた。私があそこにいた時、あいつはそこにいたんだろ。私が何されてるか知ってたんだろ!!」 Eva「……そうだね」 Sol「だったら……」 意外にも言葉は続かなかった。 怒りなのか、恐怖なのか、それとも単純な混乱なのか、Sol自身にも分からない。 ただ、頭の中に古い記憶の断片が次々と浮かんでは消え、Celesという一人の人間に繋がっていた。 Sol「……敵じゃないって言われても、無理なんだけど」 Eva「うん」 Sol「だって私からしたら、あの場所にいた人間なんだよ。研究者じゃなかったとか、命令されてただけとか、そんな事情を聞いたって……今すぐ『じゃあ大丈夫』なんて思えるわけないだろ」 Eva「……それは私も同意できる」 Evaは反論しなかった。今のSolに必要なのは正論ではないと分かっていたからである。 やがて、Stellaが恐る恐る口を開く。 Stella「……Solちゃん、私、今まで……Solちゃんが普通に生まれたわけじゃないっていうのは気になってたけど、そんな場所にいたなんて知らなかった……本当に辛かったね」 Sol「……まあ、言ってなかったし」 Stella「目のことも……ごめんね……」 Sol「……あんたが謝らなくていいから」 Stella「……CelesさんとSolちゃんが、そんな昔から繋がってたなんて……今日まで普通に一緒に話してたのに、そんなことがあったんだね」 Veris「……私もです」 Verisはずっと閉じた扉を見つめていた。 Veris「Solが施設で生まれたこと自体私も詳しく知りませんでした。……まさか、そんな過酷な場所だったなんて」 Sol「……別に、話したくなかっただけだって。何度もしつこいな」 Veris「……すいません」 Quan「……整理すると、Celesは施設の職員だったがSolへの実験行為には直接関与していないという事で良いな」 Sol「……お前は相変わらずだな」 Quan「事実を確認しているだけだ。感情的な評価は他にある」 Sol「今それ言わないでくれる?」 Quan「言う。進まないとお前の為にはならない」 Quanは閉じた扉へ目を向ける。 Quan「Celesの責任を考えるなら、施設の実態を知りながら何もしなかったことへの道義的責任だろう。最も、本人は理解してそうだが」 Eva「……まあ、そういう話になる」 Quan「ただし、それを理由にCelesを実験者と同一視するのも論理的には誤りだ」 Sol「……」 Quan「お前が今Celesを許せないことと、Celesにどの程度の責任があるかは別問題だ。感情と事実を混ぜると判断を誤る」 Sol「……分かってるよ」 Quan「分かっていないように見える」 Sol「っ……お前……」 Quan「理解したくないならしなければいい。だが、それでCelesが実験者になるわけではない」 Solは何も返さなかった。 自分の中では、あの施設にいた人間というだけで激しい嫌悪の対象だ。 けれどCelesが自分を傷つけたわけではないことも、Quanの説明を聞けば分かる。 その二つが頭の中で同時に存在してしまうことがひどく気持ち悪かった。 Sol「……じゃあ私はどうすればいいんだよ」 Eva「……」 Sol「Celesが悪くないのはそうなんでしょ。でも今は無理なんだよ。あの時ガラスの向こうにいた奴が今まで普通に私の隣で笑ってたって考えたら……そりゃ、頭ぐちゃぐちゃになるだろ」 Stella「……うん」 Sol「……私、Celesのこと嫌いだったわけじゃない」 その言葉に、Evaが顔を上げた。 Sol「普通に面白い奴だと思ってたし、Evaを弄ってんの見て笑ってたし、また来ればいいのになってずっと思ってた」 Sol「なのに今は、あいつの声聞くだけで昔のことが出てきそうで……自分でもどうすればいいのか分かんない……」 やがてSolは涙声になり始める。察したEvaがSolの肩を取り、告げる。 Eva「……だから今は、それでいい」 Sol「……え」 Eva「うん。無理にCelesを許す必要なんてないし、今すぐ理解する必要もない。感情が追いつかないことくらい誰だってあるから」 Sol「……」 Eva「みんなあいつが悪くないって知ってる。でも今この状況を見たら……どうすればいいんだろ」 Sol「……分かんねえのかよ」 Stella「……」 Veris「……」 誰も何も言わず、ただ、Solのそばにいる。 それだけしかできなかった。 Quan「……少なくとも、Celesについては認識の合意が取れただろう。それで、お前がどう感じるかは時間をかけて考えればいい」 Sol「……なんか理屈屋に言われるとムカつく」 Quan「知るか」 研究室には、まだCelesが置いていった空気だけが残っていた。 Celesはたぶん、今頃一人で後悔しているだろう。そしてSolもまた、思い出さなくてよかった事を思い出してしまった。 Evaはそんなことを考えながらまた頭を抱えている。 Eva「……ほんと、どうしてこうなったかな」 ーーー 共同部屋に戻ってから、五人は誰一人としてまともに口を開かなかった。 Stellaはソファの端に座ったまま膝の上で手を組み、Verisは向かい側で俯いている。Quanは本を開いているものの、しばらく同じページから進んでいない。Evaはソファで寝ず、真面目な顔で研究作業をする振りをしている。 そしてSolは、窓際の椅子に座ったまま動かなかった。 Sol「……」 Solは両手で頭を抱える。 Sol「……なんでだよ」 Eva「Sol」 Sol「分かってるんだよ。Celesが悪くないってことくらい、私でももう分かるよ。なのに、なんか……ずっと嫌」 声が小さくなる。 Sol「顔や声を思い出すだけで、どうしてもあの場所が出てくるんだよ。Celes本人が何もしてないって分かってるのに、どうしても……」 Evaは何も言わなかった。 Sol「……私、最低だよな」 Eva「そんなことないだろ」 Sol「だって、あんなふうに追い出したんだぞ。あいつは何もしてないのに」 Eva「……」 Sol「しかも、あいつ最後に『すまない』って言っただろ」 Eva「……言ったな」 Sol「……あれ、絶対また自分を責めるよな」 Evaは少し目を伏せた。 Celesはああいう人間だ。 自分から余計なことを言わず何でも軽く受け流すくせに、内側では妙なところまで責任を背負い込む。 だからこそ、さっきの言葉はかなり重かったであろう。 Sol「……私、あいつに余計な罪悪感持たせるつもりじゃなかったのに」 Stella「……」 Sol「でも、『許す』なんてすぐ言えるわけないだろ。あんな状況でさ」 Veris「……はい」 Sol「じゃあどうすりゃよかったんだよ……」 誰も答えられない。正解など最初から用意されていない問いのようである。 Sol「『あんたは悪くない』って言ってやればよかったのか? でもそんなの、その場で言えるわけないだろ。私からしたら、急に昔の施設と全部繋がったんだぞ。頭の中ぐちゃぐちゃになって、目の前にいるのが誰なのかも分かんなくなった」 Quan「……」 Sol「だから……出てってって言った」 Solは自分の膝に肘を置き、俯いた。 Sol「……なのに、今になって後悔してる」 Eva「……」 Sol「Celes、たぶん今頃ずっと考えてると思う。自分が何か悪いことしたんじゃないかって」 Eva「……うん」 Sol「それが嫌なんだよ。私が傷ついたことと、Celesが悪いことしたかどうかは別なんだろ。理屈屋の言ってた通りだ」 Quan「……そうだな」 Sol「……私が拒絶したせいであいつがまた昔のことまで掘り返して、自分を責め始めていたら……私……ほんとに最低かも」 そこで言葉が止まり、Solは拳を握ったまましばらく黙っていた。 Stella「……Solちゃん」 Sol「……何」 Stella「今すぐ答えを出さなくてもいいと思うよ」 Sol「……」 Stella「Celesさんが悪くなかったって分かっただけでも、今は十分なんじゃないかな。Solちゃんが嫌だと思ったことまで、無理に変える必要はないよ」 Veris「……そうですね。拒絶してしまったことを後悔する気持ちも分かりますが、あの場で冷静に判断できなかったことまで責める必要はないと思います」 Sol「……二人とも、優しいな」 Veris「そんなことありません。誰も悪くない話ですから」 Sol「……ありがとう」 その横で、Quanが静かに口を開く。 Quan「一つだけ言うなら、Celesに罪悪感を抱かせた責任をお前は背負い続けている」 Sol「……え」 Quan「お前は過去に傷つけられた側だ。今回の反応も、その過去を突然思い出した結果として考えれば不自然ではない。なら、Celesが自分を責めるかどうかはCeles自身の問題だ。お前がそれを防ぐ義務はない」 Sol「……理屈としては分かるけど、それは嫌」 Quan「……と言うと」 Sol「Celesには、あんな顔してほしくなかった」 Quan「なら……更に対応が必要だな」 Quanは少しだけSolを見た後、それ以上は何も言わなかった。 やがて部屋は再び静かになり、各々やることを再び始めていた。 だが、Solだけは頭の中で何度も同じ場面を繰り返していた。 「出てって!!」 自分が叫んだ声。 扉を開けて出ていくCeles。 そして最後に聞いた、あの短い謝罪。 Sol「……すまない、じゃねえよ」 誰にも聞こえないほど小さく呟く。 Sol「謝るのは……私じゃないのかよ」 その言葉に続く答えは、自分の中にもなかった。 ーーー 研究室の空気が重いまま、時間だけが過ぎて夜になっていた。 相変わらずSolは椅子に座ったままずっと頭を抱えている。EvaはそんなSolを少し離れたところから見つめ、何度か声を掛けようとしてはやめていた。 その一方で、StellaとVerisは少し離れた場所で声を落として話していた。 Veris「……Stellaさん」 Stella「……うん」 Veris「Celesさん、もう来なくなりますよね……」 Stella「私も、そうなるんじゃないかなって……」 Veris「せっかくあんなに仲良くなっていたのに……」 Stella「うん……私も、Celesさんがもう来なくなっちゃうのは嫌だな」 Veris「私もです。最初は少し怖い人なのかと思っていましたけど、話してみると意外と面白い方でしたし……Evaさんとのやり取りも、見ていると面白いですし」 Stella「うん、Evaちゃんがあんなに嫌そうな顔してるの、絶対普段見られないからね」 Eva「聞こえてるぞ」 Stella「ごめんごめん」 二人とも少しだけ笑った。 Stella「……でも、Celesさんに来てほしいって言うのも難しいよね」 Veris「そうなんですよ。Solが悪いわけじゃないんですが、ああなった手前来なくなるのが自然です」 Stella「うん……どうすればいいんだろうね」 SolにはSolの後悔、CelesにはCelesの後悔がありどちらか一方だけが謝れば解決するような問題でもなかった。 仲直りすればいい、という簡単な話ではない。 Stella「……和解って、どうやったらできるんだろうね」 Veris「分かりません……」 Stella「私も分からない……」 Veris「珍しいですね、Stellaさんがそこまで悩むのは」 Stella「だって、今回は私が何か言ったところでどうにもならない気がするの……Solちゃんの気持ちは私達が口を出せることじゃないし、Celesさんにも『気にしないでまた来てください』って言うのも、たぶんCelesさんには重すぎるし……」 Veris「……そうですね」 Stella「二人とも大事だから、どっちかを押し切るようなやり方はしたくないな」 Veris「……はい」 その傍ら、Evaは一人でSolを見つめていた。 何度も声を掛けようとしたが、今のSolに何を言えばいいのか分からない。 「Celesは悪くない」 それはもう伝えた。 「気にするな」 そんなことを言えるわけがない。 「謝ればいい」 それも違う。 Solは今、Celesを傷つけたことを気にしている。 だが同時に、Celesの顔を思い出すだけで昔の施設が蘇るという拒絶感も抱えている。 Eva「……」 結局、Evaが何も言わずに虚空を見つめていると、Solの方から話しかけられた。 Sol「……Eva」 Eva「……ん」 Sol「Celes、もう来ないかな」 Eva「……分からない」 Sol「そっか」 それだけしかできなかった。 一方、Quanは少し離れた場所で一人、状況を整理していた。 Celesが来なくなれば、Solは一時的には安心するかもしれない。 だが、それによって「Celes=自分が拒絶すべき存在」という認識が固定される可能性もある。 逆にCelesが今まで通り来れば、Solの心理的負担は増える。 そしてEvaが仲介すればするほど、Solが「EvaはCeles側なのではないか」と感じる可能性もある。 Quanはそこまで考えて、ほんの少し眉を寄せた。 Quan「……厄介だな」 Stella「Quanちゃん?」 Quan「……何でもない」 そう言って、Quanは再び黙った。 ーーー しばらく、誰も口を開かないまま夜が更けようとしていた。 Solは窓際の椅子に座ったままずっと俯いていたが、やがてSolが、ゆっくり顔を上げた。 Sol「……Eva」 Eva「……ん」 Sol「Celesの勤めてる病院の場所教えて」 Eva「……は?」 あまりにも唐突な言葉だった。にも拘わらずSolはもう立ち上がろうとしていた。 Eva「ちょっと待て待て、何する気だ」 Sol「だから、場所を教えてって」 Eva「いや、それは聞いたけどさ……理由を聞かせろ」 Evaがかなり嫌な予感を覚えたのか嫌な顔になり始める。Solがそれを遮るように続けた。 Sol「別に喧嘩したり復讐しに行くんじゃないから……」 Eva「……じゃあ何」 Sol「さっきのこと、謝りに行く」 Eva「……え」 予想外の言葉に全員の視線が向く。 Sol「……施設の事は絶対許さない。私があそこで何されたか、それをCelesが知ってたことも、あいつがあそこにいたことも、たぶん一生忘れないし、許せないものは許せない。でも、それとCeles本人が私に何かしたかって話は別、それはさっき聞いた」 Eva「……うん」 Sol「だから、さっきみたいに全部ひっくるめて『出てって』って言ったのは、やっぱ最低。私が勝手にあの施設と一緒にして、目の前から排除しようとしたから……あいつ、絶対また自分のこと責める。だから、そこをちゃんと謝る」 Evaは黙ってSolを見る。 さっきまで頭を抱えていた少女とは、少し違う顔をしていた。 そしてSolは少しだけ笑った。 Sol「でもね、私があいつに言いたいのはそれだけじゃないんだよ」 Eva「……何?」 Sol「Celesはさ、あの時の私を知ってるんだろ。だからたぶん、今の私を見てもずっとあの頃の私と重ねちまってるんだと思う」 Veris「……それは」 Sol「でも私はもう、あそこにいた時の私じゃないから」 Solは研究室の中を見回した。 Stella、Veris、Eva、Quanの四人全員がSolを見ている。 Sol「私は今、ここで普通に暮らしてる。飯食って、ゲームして、委員長に怒られて、Stellaに変な絡み方されて、理屈屋に馬鹿にされて、Evaに面倒臭がられて……いやあんま普通じゃないかも」 Quan「全くだな」 Sol「うるせえ!……じゃなくてさ、Celesにもそこは分かってほしいんだよ。私はもう、あの施設の中でガラス越しに見られてた被験体じゃない。今ここにいるSol_Tlakeって研究者ってことをさ」 Eva「研究したことあるかお前?」 Sol「あーもうさっきから真面目に話してるじゃん!!……Celesがあの頃の私を忘れられないのは勝手だけど、それで今の私まで昔の続きにしないでほしいってこと」 Veris「……」 Sol「私だって、あの頃のことを全部消せるわけじゃないよ。だからってCelesがこれからずっと自分を責め続けるのを見たいわけじゃない。私が今の生活をしてるのに、Celesだけがあの頃の私の前に立ったままなのは……なんか違うだろ」 最後の言葉は、少しだけ弱かった。 Sol「だから、言いに行くから。『ごめん』って」 Eva「……」 Sol「それから、『お前はもう、あの頃の私を見てなくていい』って」 Evaはしばらく何も言わなかった。 やがて、小さく息を吐く。 Eva「……はは」 Sol「何だよ」 Eva「いや……何と言うか、立派になったな」 そしてEvaは立ち上がってスマートフォンを手に取った。 Eva「Celesが今勤めてる病院はここ受付でCelesの名前を出せば、たぶん呼び出してもらえると思うから」 Sol「Eva……!」 Eva「ただ、あいつクソ忙しいからせめて休憩中とか狙え……あと、変な勢いで病院の中を走るな」 Sol「そんなことしないって!!」 Stella「Solちゃん、一人で大丈夫?」 Solは少し考えてから、頷いた。 Sol「……一人で行く」 Eva「……本当に?」 Sol「うん。私がやらないといけないことだから」 Eva「……そっか。じゃあ頑張ってこいよ」 その後は特に会話も続かず、各々部屋に戻っていった。空は雲一つない星空が照らしていた。 --- 数日後。 珍しく余所行きの格好をしたSolと他4人が玄関にいる。 Eva「……無理に仲直りしなくていいからね」 Sol「分かってる」 Eva「ただ、自分が言いたいことだけちゃんと伝えてきな」 Sol「……うん」 Solはカバンを握りしめる。 正直、まだ怖かった。Celesの顔を思い出せばあの施設の記憶が蘇ってくるからである。 たぶん、実際に会ったらまた嫌な感覚が湧いてくるであろう。 それでも、今度は逃げるためではなく、自分の意思で会いに行くのである。 Sol「……じゃあ、ちょっと行ってくるわ」 Stella「うん、気をつけてね」 Veris「帰り道も気をつけてください。あと……本当に病院内で騒がないでくださいね」 Sol「分かってるって!何だと思ってんだ」 Quan「……」 Sol「何だよ理屈屋。言いたいことあるなら言えよ」 Quan「いや。昔よりは合理的な判断を出来るようになったなと」 Sol「褒めてんのか?」 Quan「さっさと行け」 そう言ってSolは、ようやくいつもの調子で笑いながら出て行った。 Evaはその背中を見送りながら、少しだけ肩の力を抜く。 あとはもう、二人自身に任せるしかなかった。
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