ep4:"空白の少女" sec-1
研究室の昼下がり。
窓から差し込む光の中で、Stellaは机いっぱいに部品を広げながらよく分からない装置を組み立てている。
Solはソファで寝転がりながら工具を指で弄んでいる。Verisはそんな二人を横目に床へ散らばったネジを拾い集めていた。
Evaだけは相変わらずソファの端でだらけ切り、雑誌を顔に乗せてほとんど動かない。
Veris「Stellaさん、お願いですから床に部品を散らかさないでください…」
Stella「大丈夫だよ~、どこにあるか全部分かってるから」
Veris「その台詞、この前も聞きましたけど!?」
Sol「相変わらず委員ちょは真面目だねぇ」
Veris「そうじゃないとこの研究室が回りませんから…って誰が委員長ですか!」
Eva「……」
三人が騒いでいても、Evaだけは雑誌を顔に乗せたまま微動だにしない。Verisが呆れたように視線を向ける。
Veris「…Evaさんも何か言ってくださいよ」
Eva「あ~…壊さなきゃいいや」
Veris「それだけですか!」
Stella「いやいや~、寝てるEvaになんか言わせるだけでもすごいよ」
Eva「今日は気分が良い」
Veris「なんですかその基準…」
研究室には、いつものように緩い空気が流れていた。
Solが研究室の一員となってからしばらく経ち、この共同生活もすっかり日常になっていた。
喧嘩も騒ぎも相変わらずだし、研究なんか全然進んでない。それでも以前より、この部屋は少しだけ賑やかだった。
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しばらく沈黙が続いたあと、Evaが突然雑誌を畳んで起き上がる。
Eva「あ、そうだStella」
Stella「んー」
Eva「来週いない日あるからよろしく」
Stella「あ、Quanちゃんのリハビリだねー。おっけー」
二つ返事でStellaは再び作業へ戻っていく。二人にとってはなんてことない会話である。
Veris「……えっと」
Sol「…誰?」
新しく来た二人にとってはそうではなかった。すぐにEvaが気付く。
Eva「あ、そうか話してなかったか」
Veris「研究室の関係者ですか」
Sol「親戚とか?」
Eva「いや」
少しだけ視線を天井へ向ける。
Eva「……昔の友達」
Sol「昔って」
Eva「高校」
Verisは少し意外そうな顔をする。
Veris「高校時代のお友達がいらっしゃったんですね」
Eva「中々失礼だなお前」
Veris「いえ、その……」
Sol「私もちょっと思った。だって如何にも人付き合い面倒そうって顔してるじゃん」
Eva「嫌いだよ」
Sol「ほら」
Stella「大学の頃も私くらいしか話してなかったね~」
Eva「あの時は忙しかっただけだから…」
Veris「…それで、そのQuanさんという方は」
Eva「入院中。昔事故にあってな」
部屋の空気が少し静かになる。
Veris「…重い事故だったんですか」
Evaは少しだけ表情を変える。いつもの面倒そうな顔ではなく、何かを思い出すような遠い目。
Eva「まあ」
Stellaも作業の手を止める。
Solは普段なら茶化すところだったが、空気を察したのか黙って続きを待つ。
Veris「その方のお見舞いへ行かれるということですか?」
Eva「いや、いつものリハビリの様子見という訳」
Veris「お医者様としてですか」
Eva「いや、今はもう医者じゃないんだが…こいつは特別でな」
Sol「ふーん」
Solは興味深そうに身体を起こす。
Sol「なんか聞けば聞くほど気になる人なんだけど。せっかくだしその人のこと教えてよ」
Veris「私もです。ちょうど片付けも終わりましたし、折角ですから」
Evaは面倒そうな顔をしている。だが、普段と違いやや真剣なようにも見える。
Eva「……結構長い話になるぞ」
Sol「暇だからいいよ」
Veris「知らないままなのは流石にモヤモヤします」
Eva「……別に隠してたわけじゃないんだけど、聞かれなかったから話さなかっただけ。完全に私の人生の話だしな」
Solが何かを感じたのか、表情が硬くなる。
Sol「…もしかしてそのQuanって人って」
Eva「私が医者になった理由」
二人とも息を止める。Stellaは静かにEvaを見ている。
Veris「……そう、だったんですか」
Eva「だから話すと長いんだって。じゃあ...あれは私が高校の時の話」
研究室には静かな空気が流れている。普段なら騒がしい面々も、今だけは誰一人として口を挟まない。
Evaはソファへ深く座り直し、小さくため息をついた後少しだけ遠くを見るような目をして、ゆっくりと口を開き始めた。